小学生でも計算できるのに、90年近く誰も解けない「コラッツ予想」を調べてみた

前回のナビエ・ストークス方程式を調べていたとき、「機械で確認済みの証明でも、まだ信用できない」という話が出てきた。その流れで英語の記事を読んでいたら、2026年7月に「コラッツ予想が反証された」という話が、3日ほどで取り消された事件にぶつかった。

コラッツ予想。名前だけは聞いたことがあった。ルールが小学生でもわかるくらい簡単なのに、90年近く誰も解けていない問題らしい。

ルールが簡単なら、わたしにも少しはわかるかもしれない。そう思って、また海外の記事を読みあさった。数学専門メディアのQuanta Magazine、証明チェックソフトの事件を追った記事、数学者のブログ、日本企業が出している懸賞のお知らせまで。

今回はほんとうに、足し算とかけ算と割り算しか出てこない。

文中のラベルの意味

発表研究者本人、ソフトの開発元、懸賞を出している会社などが発表・発言したこと

報道メディアが伝えているが、発表元では確かめられなかったこと

推測わたしの推測、たとえ話、ざっくりしたイメージ

読みあさった主な記事と資料

Quanta MagazineMachine Logic(ポールソン氏のブログ)GIGAZINEAIEZZテレンス・タオ氏のブログUnanswered共同通信PRワイヤーWikipedia(英語版)

どの記事に何が書いてあったかは、本文の中といちばん下の一覧に書いた。

先に、調べてわかったことを3行で

好きな数から始めて、偶数なら半分に、奇数なら3倍して1を足す。これをくり返すと、どんな数でも最後は1にたどり着く、というのがコラッツ予想。

コンピュータで22桁の数(2の71乗)までは全部確かめられていて、例外は見つかっていない。でも「全部の数で必ずそうなる」という証明は、1937年から誰にもできていない。

2026年7月の「反証」は、証明をチェックするソフトのバグを突いたものだった。予想は今も未解決のまま。

ルールは2つだけ

好きな正の整数をひとつ選ぶ。そして、次のルールをくり返す。

偶数なら、2で割る。奇数なら、3倍して1を足す。

本当にこれだけ。1にたどり着いたら終わりにする(1からさらに続けると、1→4→2→1とぐるぐる回るだけになる)。

いまの数 偶数なら 奇数なら 2で割る 3倍して1を足す くり返す
ルールはこれだけ。出てきた数に、また同じルールを当てはめていく。

試しに6から始めてみる。6は偶数なので半分にして3。3は奇数なので3倍して1を足して10。10は偶数で5。5は奇数で16。そこから8、4、2、1。8回で1にたどり着いた。

6 3 10 5 16 8 4 2 1 ÷2 ×3+1 ÷2 ×3+1 あとは÷2が続く 8回で1にたどり着いた
赤い丸が奇数。奇数のところで数が増え、偶数のところで減る。上がったり下がったりしながら1に向かう。

1937年に、ドイツの数学者ローター・コラッツがこの問題を考えた。報道 「3n+1問題」と呼ばれることもあるし、広まった場所や人の名前をとって、シラキュース問題、角谷の問題などとも呼ばれている。日本の数学者の名前もついているのは、ちょっと意外だった。

27から始めると、とんでもないことになる

6は8回で終わった。じゃあ7は。数えてみると16回で、途中で52まで上がる。ここまではかわいいものだった。

27から始めると、話が変わる。1にたどり着くまでに111回かかって、途中で9232まで上がる。報道 スタートの27の340倍以上だ。

77回目に9232 0回 111回で1 数の大きさ
27から始めたときの動き(わたしが計算したもの)。70回近く小さいまま上下して、急に跳ね上がり、そこから一気に落ちてくる。雹(ひょう)が雲の中で上下しながら育って落ちてくるのに似ているので、英語では「雹の数」とも呼ばれるらしい。

グラフにしてみて、思わず笑ってしまった。27という小さな数が、こんなに暴れるとは思わなかった。ちなみに1万より小さい数でいちばん時間がかかるのは6171で、1にたどり着くまで261回かかる。これもわたしが計算した。

自分で好きな数を入れて試せるようにした。

好きな数で試してみる

正の整数を入れて「やってみる」を押すと、1にたどり着くまでの回数と、途中のいちばん大きな数を出す。30桁まで入れられる。

1にたどり着くまで111回

途中のいちばん大きな数:9,232

計算式:偶数なら2で割る、奇数なら3倍して1を足す、をくり返して数えているだけ。5万回を超えたら途中で止める(そんな数が見つかったら大ニュースになる)。

何が「未解決」なのか

コラッツ予想が言っているのは、「どんな正の整数から始めても、必ず最後は1にたどり着く」ということ。

これが間違っているとしたら、たどり着かない数がどこかにあるはずで、その可能性は2通りしかない。ひとつは、上がったり下がったりしながらも、全体としては果てしなく大きくなっていく数。もうひとつは、1とは別の輪っかに入って、同じ数をぐるぐる回り続ける数。

パターン1 果てしなく大きくなる パターン2 別の輪っかを回り続ける ?
どちらかの数がひとつでも見つかれば、予想は間違いだったことになる。どちらもないと証明できれば、予想は正しかったことになる。

どちらの数も、今のところ1個も見つかっていない。それでも「ない」とは言い切れない。そこが数学の厳しいところだった。

22桁の数まで確かめても、証明にはならない

コンピュータでの確認は、ものすごく進んでいる。2025年の論文で、2の71乗までのすべての数が、1にたどり着くことが確かめられた。報道 2の71乗は、だいたい2,360,000,000,000,000,000,000。22桁の数で、日本の単位でいうと約24垓(がい)。1京の1万倍が1垓なので、京よりさらに上だ。

それでも証明にならないのは、数が無限にあるからだ。22桁の数は大きいけれど、無限から見れば、まだスタート地点のすぐ近く。そのすぐ先に、とんでもない例外がひとつだけ潜んでいる可能性は、確かめていない以上なくならない。

ここまで確かめ済み 1 2の71乗 まだまだ続く 数は無限にあるので、どこまで確かめても「全部」にはならない …
赤い部分の長さはイメージ。実際には、無限から見るとどんな大きな範囲も点みたいなもの。

実際、「ポリアの予想」という別の問題では、9億を超えたところで初めて例外が見つかって、予想が間違いだとわかった。だから数学者は、「たくさん確かめた」では納得しない。

「たぶん正しい」と思われている理由

証明はないのに、ほとんどの数学者は「たぶん正しい」と思っているらしい。その理由を説明していた、わかりやすい見積もりがあった。わたしなりに書き直すとこうなる。推測

奇数に当たると、3倍して1を足すので、数はおよそ3倍になる。でも、3倍して1を足した数は必ず偶数になるので、次は必ず2で割られる。さらに、その数がまた偶数ならもう一度割られる。平均すると、奇数のあとには2で2回くらい割られる。

つまり、ならすと「3倍して、4で割る」。3/4倍だから、数は少しずつ小さくなっていく。

奇数 ×3 偶数 ÷2÷2 ならすと3/4倍 平均すると、1回まわるごとに少し小さくなる ただし「平均すると」なので、全部の数がそうとは言えない
よく紹介されるざっくりした見積もりを、わたしが図にしたもの。1を足す分や、割る回数のばらつきは無視している。

ただ、これはあくまで「平均すると」の話。平均では小さくなっても、運悪く奇数ばかり引き続ける数が、どこかにひとつくらいあるかもしれない。27がまさにそうで、しばらく奇数を引きまくって9232まで上がった。「ほとんどの数は1に行く」と「全部の数が1に行く」のあいだには、大きな崖がある。

いちばん近づいたのは、2019年のタオ氏

この崖にいちばん近づいたとされているのが、数学者のテレンス・タオ氏が2019年に出した結果だ。Quanta Magazineによると、タオ氏は「ほとんどすべての数は、1のすぐ近くまで下がってくる」ことを証明した。報道 ここ数十年でいちばん大きな前進と言われている。

Quantaの記事のたとえが面白かった。タオ氏のやり方は、世論調査に似ているという。うまく調査したい集団を選べば、少ない人数でも全体の傾向がわかる。でも、1の近くまで来ると調査の誤差が大きくなって、最後の一歩が言えなくなる。報道 タオ氏自身も「コラッツ予想にいくらでも近づけるけれど、まだ手は届かない」と話している。報道

しかもこの問題、数学者のあいだでは「危険な問題」として知られているらしい。専門家のジェフリー・ラガリアス氏は、「人を夢中にさせるけれど、本当に解けない」と警告している。報道 数学者どうしでも、この問題の話をする前に注意し合うのが普通らしい。報道 20世紀の大数学者エルデシュは、「数学はまだ、こういう問題を扱う準備ができていない」と言ったと伝えられている。報道

2026年7月の「反証」騒ぎ

ここからが、わたしがこの問題を調べるきっかけになった事件。

7月25日、形式検証(証明をコンピュータで確かめる分野)の専門家ラマナ・クマール氏が、AIの助けを借りてコラッツ予想を反証した、とするプロジェクトを公開した。報道 中身は、「1にたどり着かない数が存在する」という証明を、Leanという証明チェックソフトで確かめたもの。具体的な数は示していなかった。報道

Leanは、前回のナビエ・ストークスの回にも出てきた、証明を一行ずつ機械で確かめるソフト。しかも念のため、Nanodaという別のチェックソフトでも確かめていて、そちらも通っていた。報道 90年近く解けなかった問題が、AIで、しかも機械の二重チェック付きで反証された。そう読める状況だった。

ところが、くわしく調べるうちに、同じやり方を使うと、Leanが明らかに間違った命題(たとえば「0=1」)まで「正しい」と受け入れてしまうことがわかった。報道 反証が正しかったのではなく、チェックするソフトのほうに穴があった。

7月25日 「AIの助けで反証した」と公開 チェック LeanもNanodaも「正しい」と判定 調べてみると 間違った命題まで通ってしまうと判明 7月28日 バグとして報告、その日のうちに修正版
GIGAZINEなどの記事をもとに、わたしがまとめた流れ。予想は反証されておらず、今も未解決。

7月28日、別の研究者が問題を小さく再現して、Leanの開発チームに報告した。チームは約1時間後に修正案を出し、同じ日に修正版(Lean 4.32.2)を出している。報道 Leanの開発者は、ソフトの論理そのものではなく、中心部分のプログラムが必要なチェックをしていなかったのが原因だと説明している。報道 もうひとつのNanodaにも、たまたま別のバグがあった。2つの関係ないバグが重なって、両方を通り抜けてしまったという。報道

ここで大事なのは、穴に気づいたのが、反証を公開したクマール氏本人だったということ。報道 自分の結果を自分で疑って調べ直した結果、ソフトの穴が見つかった。この件で予想について新しくわかったことは何もないけれど、証明チェックソフトの穴がひとつふさがった。

イギリスの計算機科学者ローレンス・ポールソン氏は、自分のブログで、ほかの証明チェックソフトでも同じような穴は見つかってきたし、これからも見つかりうる、と書いていた。発表 タオ氏のブログに載った数学者トーマス・ヘイルズ氏の寄稿は、Leanの証明は中心部分のチェックを通るまで信じてはいけないし、最後は人間が中身を確かめる必要がある、とまとめていた。発表

ナビエ・ストークスの回で「機械で確認済みなのに、まだ確定じゃない」と書いたけれど、まさにその実例だった。AIが証明を書いて、機械が確かめる時代になっても、最後に「本当にそうか」と疑う人間の役目はなくならないらしい。推測

日本に1億2000万円の懸賞がある

調べていて驚いたのが、コラッツ予想に日本企業の懸賞がかかっていること。2021年、東京の「株式会社音圧爆上げくん」という会社が、コラッツ予想の真偽を明らかにした人に1億2000万円を出す、と発表した。発表

前回のナビエ・ストークス方程式の懸賞が100万ドル、つまり1億数千万円なので、だいたい同じくらい。小学生でもわかるルールの問題に、ミレニアム懸賞問題並みの値段がついている。細かい条件は懸賞のサイトの規約によるとされていて、今も同じ条件で続いているかまでは確かめられなかった。

調べてもわからなかったこと

コラッツ予想が正しいのか、間違っているのか。どちらの方向から攻めれば証明できるのか。どれも、まだ誰にもわからない。

英語版のWikipediaには、コラッツ予想を少し広げた問題は「どんな方法でも解けるかどうか判定できない」タイプになりうる、という研究まで載っていた。報道 コラッツ予想そのものが、永遠に証明も反証もできない問題なのかどうかも、わかっていない。

このページは、新しい情報が出たら書き足していく。

ついでに気になったこと

「3倍して1を足す」の3を5にしたらどうなるの?

試してみると、すぐに1にたどり着かない例が見つかる。たとえば5倍して1を足すルールで13から始めると、13、66、33、166、83、416、208、104、52、26、13と進んで、13に戻ってきて輪っかになる(わたしが計算した)。3というのが、絶妙な数らしい。

自分で解いてみてもいい?

いいと思う。ただ、専門家たちが「危険な問題」と呼ぶ理由もよくわかった。上の計算機で遊ぶくらいが、わたしにはちょうどいい。

AIが解く日は来るの?

わからない。7月の件で、AIが書いて機械が通した証明でも、そのまま信じてはいけないことははっきりした。もしAIが本当に解いたとしても、人間が確かめ終わるまでは、ナビエ・ストークス方程式と同じで「たぶん」のままになるはず。推測

読みあさった記事と資料の一覧

2019年のタオ氏の結果の記事から、2026年10月までに出たものを読んだ。数字は、英語版Wikipediaに載っている論文の値と、わたしが自分で計算した値を使った。

更新履歴:2026年10月17日 公開

※この記事は2026年10月17日時点の報道と発表をもとに、数学の専門家ではない個人が調べてまとめたものです。「推測」と書いたところはわたしの考えやたとえで、数学的に正確な説明ではありません。