テスラの空飛ぶ車、どうやって飛んでるのか気になって調べ倒してみた
テスラの新しいロードスターの動画を見た。反り返った巨大なランプを逆さまのまま走って、端から飛び出して、空中でくるっと回って着地する。別の場面では、走りながらふわっと浮いて、並んだテスラ車を回転しながら飛び越えていた。
正直、何が起きているのか全然わからなかった。
このサイトはふだんブランドのイメージを勝手に仕分けしているだけの場所なんだけど、これはさすがに気になった。日本語のニュースは「飛んだ」「SpaceXの技術」までは書いてあっても、なぜ飛べるのかまではたどり着けなかったので、英語の記事を十数本読みあさった。発表の現地レポート、技術系メディアの考察、規制当局のコメント、懐疑的な意見まで。わかったことと、わからなかったところをつなぐための自分の推測を、まとめて置いておく。理科は中学で止まっている人間が書いているので、同じくらいの人に届けばいいなと思っている。
文中のラベルの意味
発表テスラやマスク氏が発表・発言したこと
報道メディアが伝えているが、テスラの公式発表では確かめられなかったこと
推測わたしの推測や計算。テスラの発表値ではない
読みあさった主な海外記事
TechCrunchCBS NewsFortuneElectrekSpace.comEuronewsTechRadarThe NationalKPRC 2(ヒューストン)
どの記事に何が書いてあったかは、本文の中といちばん下の一覧に書いた。
先に、調べてわかったことを3行で
翼やプロペラで飛んでいるのではなく、タンクに詰めた圧縮空気を噴き出した反動で浮いている。
逆さまでも落ちないのは、床下のファンで空気を吸い出して、車体を路面に吸いつけているから。
空気の量に限りがあるので、浮いていられるのはたぶん数秒。見せてくれたのは「空を移動する」ではなく「跳んで回る」だった。
まず、何が発表されたのか
発表は2026年10月15日の夜、アメリカ時間。日本ではもう16日だった。場所はテキサス州マクレガー(ウェーコの近く)にあるSpaceXの試験場で、X(旧Twitter)でライブ配信された。報道 場所は記事によって「ウェーコ」と書いたり「マクレガー」と書いたりしていて、地元ヒューストンのテレビ局KPRC 2の記事がいちばん詳しかった。
見せたデモは大きく3つ。湾曲したランプを駆け上がって逆さまで走り、飛び出して180度回って着地するもの。走りながら浮き上がって、サイバートラックやトラックのセミを含むテスラ車5台を回転しながら飛び越えるもの。そして、時速0から60マイル(約97km)まで約1秒という加速。報道 Euronewsによると、ランプのデモで車が着地したあと、マスク氏はひとこと「うまくいった(Well, it worked)」と言ったらしい。本人も成功するかどうか確信はなかったようで、CBS Newsは「成功は保証できないけど、たぶんうまくいく」という発言を伝えている。
運転席にいたのは人ではなく、宇宙服を着たマネキンだった。車は自動運転で動かしていて、人を乗せなかったのは失敗したときの安全のため、とマスク氏は説明している。報道 このマネキンには元ネタがあって、2018年にSpaceXのロケットで宇宙へ打ち上げられた初代ロードスターの運転席に座っていた「スターマン」。あの車はいまも太陽のまわりを回っている。
ロードスターには3つのグレードがあって、飛べるのはそのうちひとつだけ。
| グレード | 乗れる人数 | 飛ぶための装備 | アメリカでの予約金 |
|---|---|---|---|
| Performance | 2人 | 床下のファンだけ。飛ばない | 5万ドル |
| Thrust | 2人 | 後ろ向きのスラスター(加速用) | 25万ドル |
| Rocket | 1人 | 車体のまわりに10個のスラスター。跳べる | 招待制 |
生産開始は2028年の予定で、本体価格は未発表。Rocketについては、テスラが自社サイトに「公道での使用は承認されていない」と書いている(FortuneやElectrekが引用)。テスラの日本向けページにも「ロケットは、すべての地域でご利用いただけない場合があります」という注意書きがあった。発表
そもそも「飛ぶ」ってどういうことなのか
調べはじめて最初に引っかかったのがここだった。「飛ぶ」と一口に言っても、やり方がいくつかある。
物が浮く条件はひとつで、重さ、つまり地球が下に引っぱる力より強い上向きの力があればいい。その上向きの力をどう作るかが、乗り物ごとに違う。
| やり方 | 何を押して浮くか | 例 |
|---|---|---|
| 翼 | 前に進みながら、周りの空気を下へ押す | 飛行機 |
| プロペラ | 回る羽根で、周りの空気を下へ押す | ヘリコプター、ドローン、万博の空飛ぶクルマ |
| 噴射 | 自分で積んできたものを、後ろや下へ噴き出す | ロケット、テスラのロードスター |
読み比べていて、真ん中の列がいちばん大事だと気づいた。飛行機やドローンは、周りにいくらでもある空気を押している。ロケットとロードスターは、自分で積んできたものしか押せない。この違いが、あとで出てくる「何秒浮いていられるか」の答えにそのままつながってくる。
風船を手放すと飛んでいく、あれと同じ
膨らませた風船の口をしばらずに手を放すと、空気が勢いよく出て、風船は反対方向へ飛んでいく。子どものころ、部屋の中でやって怒られた人もいると思う。
これが理科でいう「作用・反作用」。何かを押すと、同じ強さで押し返される。風船は中の空気を後ろに押し出していて、そのお返しに前へ押されている。床や周りの空気を蹴っているわけではないので、何もない宇宙でも同じことが起きる。ロケットが宇宙で進めるのも、この理屈。
燃やさないロケット「コールドガス・スラスター」
「SpaceXのロケット技術」と聞いて、わたしはてっきり火を噴くのかと思っていた。違った。
ロードスターに積まれているのはコールドガス・スラスター。直訳すると「冷たいガスの噴射装置」で、燃料を燃やさない。高い圧力で詰めたガスを、ノズル(ラッパ形の噴射口)から出すだけ。燃やすロケットに比べると力はずっと弱いけど、仕組みが単純で、一瞬だけ噴いて止める、という使い方が得意だそう。
宇宙では昔から人工衛星の向きを変えるのに使われていて、SpaceXのファルコン9ロケットも、着陸しに戻ってくる1段目の姿勢を整えるのにコールドガス・スラスターを使っている。今回の「SpaceXの技術」は、たぶんこのあたりの経験のことを言っている。推測
テスラ側が明かした中身は、何本かの記事から拾い集めるとこうなる。TechCrunchによると、車両技術を担当するラース・モラビー氏いわく、スラスターは10個で、つながっている圧縮空気は約600リットル、空気は入れ直せる。発表 アラブ首長国連邦の英字紙The Nationalによると、マスク氏いわく、積んでいる空気は約250kgで、特別な燃料はいらず、車が自分で空気をため直す。後ろにメインのスラスター、車体の周りに向きを変えるためのスラスターがある。発表 テスラのXの投稿には「車内の使えるすき間すべてにCOPVを詰めた」とあった(TechCrunchが引用)。COPVは、炭素繊維でぐるぐる巻きにした高圧タンクのこと。発表
600リットルに250kg。ふつうの空気の350倍くらいの濃さになる。タンクの圧力は公表されていないけど、計算すると400気圧前後になりそう。海外の解説記事にも同じくらいの数字を出しているものがあった。推測 ママチャリのタイヤが3気圧くらいなので、ちょっと想像の外にある数字だった。
空気をため直す方法は、バッテリーで動くコンプレッサー(空気を押し縮める機械)を積んでいる、という報道がある。報道 ただ、満タンにするのに何分かかるのかは、どこにも書いていなかった。
なぜ逆さまでも落ちないのか
デモでいちばん不思議だったのは、ランプが反り返って天井のようになった部分を、車が逆さまのまま走っていたところ。てっきりスラスターで天井に押しつけているのかと思ったら、ここで働いているのは床下のファンのほうだった。
知らなかったんだけど、空気には重さがあって、地上のわたしたちはいつも空気に押されている。その力は1平方メートルあたり約10トン。ふだん気づかないのは、上からも下からも横からも同じ強さで押されていて、打ち消し合っているから。
ロードスターは、車体の下をスカート(すき間をふさぐ板)で囲って、ファンで床下の空気を吸い出す。すると床下だけ空気が少し薄くなって、反対側から押す空気のほうが勝つ。結果、車は路面に押しつけられる。ペットボトルの口をくわえて吸うと、ボトルが口にくっついてへこむ、あれと同じ。
どれくらい薄くすればいいのか、自分でも計算してみた。床下のふさげる面積を4平方メートルと仮定すると、気圧をたった5%下げるだけで約2トン分の押しつけになる。推測 思っていたよりずっと少しでいい。
Euronewsが伝えたモラビー氏の説明によると、押しつける力は最大2G、つまり車の重さの2倍。発表 逆さまのとき、重さは車を天井から引きはがす向きに1倍ぶん働く。吸いつけは天井へ押しつける向きに2倍ぶん。差し引き1倍ぶんが残るので、ふつうに地面を走っているときと同じくらいの強さで、タイヤが天井に押しつけられていることになる。
このアイデア自体は昔からあるらしい。1978年のF1で、ブラバムBT46Bという車が床下ファンで吸いつく仕組みを使って勝ち、その1戦だけで姿を消している。強すぎたんだと思う。最近だと、イギリスのマクマートリー・スピーリングという小さな電気自動車が、同じ考え方で有名になっていた。Electrekの記者もこのマクマートリーを引き合いに出して、ファンで吸いつく仕組み自体は現実的だと見ていた。テスラのものは、スカートの高さを路面に合わせて動かせるところが新しい、とTechRadarは伝えている。報道
空中でくるっと回れる理由
空中ではタイヤも路面も使えない。向きを変えられる道具は、スラスターしかない。
物を回すには、中心(重心)からずれた場所を押せばいい。ドアを開けるとき、ちょうつがいの近くを押すと重いのに、取っ手のあたりを押すと軽く開く。あれと同じ理屈で、車体の端のほうにあるスラスターを噴くと、車がくるりと回る。たとえば前の上側で上へ、後ろの下側で下へ同時に噴けば、前は押し下げられ、後ろは押し上げられて、前のめりに回転する、という具合。推測
ただ、狙いどおりにぴたっと止めるのは難しいはず。回りすぎたり、風で傾いたりする。そこでセンサーで車の傾きを測りながら、電動のアクチュエーター(細かく動く部品)が1秒にも満たない間隔で噴射を調整している、と伝えられている。報道 宇宙船が向きを整えるのとほぼ同じ考え方なので、ここはたしかにSpaceXの得意分野だと思う。
何秒浮いていられるのか、計算してみた
いちばん知りたかったのに、どこにも書いていなかったのがこれ。テスラは、何秒・何メートル飛べるかを発表していない。仕方がないので、ここまでの材料で自分で見当をつけてみた。
浮き続けるには、重さと同じだけの上向きの力がいる。スラスターの力は「1秒間に噴き出す空気の量」と「噴き出す速さ」のかけ算で決まる。噴き出す速さはガスの種類でだいたい決まっていて、宇宙で使う窒素のコールドガス・スラスターで秒速700mちょっと。地上では周りの空気に押し返されるので、これより遅くなる。
つまり、車が重いほど、毎秒たくさんの空気を捨てないと浮いていられない。2トンの車なら毎秒およそ27kg。250kgの空気は10秒もたずになくなる計算になった。推測
何秒浮いていられるか計算機
噴き出す速さは、いちばん都合のいい秒速716m(宇宙用の窒素スラスターの実測値から計算)にしてある。実際の地上ではこれより短くなる。
浮いていられる時間約9.7秒
最初の1秒で使う空気:約27kg
計算式:時間 =(噴き出す速さ ÷ 重力の強さ)× log(最初の重さ ÷ 空気を使い切ったあとの重さ)。空気を噴くほど車が軽くなるぶんも入れてある。車の重さは公表されていないので、2,000kgは仮の数字。
後ろのメインスラスターは80kN(約8トン分の力)という数字が、ElectrekやTechRadarで報じられている。報道 もしそうなら、全開で噴くと250kgの空気は2秒ちょっとで空になる。推測 0から時速97kmまで約1秒という発表も、この「短い時間だけ一気に噴く」使い方なら話が合う。
調べ終わっての結論として、ロードスターは空を移動する乗り物ではなく、数秒だけ跳んで回れる車、と考えるのがいまのところいちばん近いと思う。マスク氏は発表のあと、Xに「結局、未来には空飛ぶ車があった」と書いていた(Fortune)。空飛ぶ車と呼べるかどうかは「飛ぶ」の定義しだいだけど、積んできたものを噴いて跳ぶという意味では、たしかにロケットと同じ仕組みだった。
万博の「空飛ぶクルマ」とはどう違うのか
日本で「空飛ぶクルマ」と聞くと、2025年の大阪・関西万博でデモ飛行をした、プロペラがたくさんついた電動の機体を思い浮かべる人が多い気がする。わたしもそうだった。あれはeVTOL(電動で垂直に離着陸できる航空機)と呼ばれるもので、比べてみると、名前が似ているだけでほぼ別物だった。
| 万博の空飛ぶクルマ(eVTOL) | テスラ ロードスター(Rocket) | |
|---|---|---|
| 押しているもの | 周りの空気(プロペラで下へ) | タンクに積んだ空気(噴射) |
| 浮いていられる時間 | 電池がもつかぎり | 長くても10秒前後(わたしの計算) |
| 道路 | 走らない | 走る(Rocketは公道未承認) |
| 扱い | 航空機 | アメリカの航空当局は「航空機に当たらない」 |
| 目的 | 空を移動する | 走る楽しさと、跳ぶ・回る見せ場 |
どちらが上という話ではなく、そもそも目指している場所が違う。空を移動したいならプロペラ、地面を走る車にちょっとだけ空を混ぜたいならスラスター。テスラは後者を選んだ、ということなんだと思う。
乗れるのか、買えるのか、法律はどうなっているのか
飛べるRocketは招待制で、ふつうの人が申し込める形にはなっていない。公道での使用も承認されていない。発表 デモでも人は乗っていなかったので、人を乗せて跳んだらどうなるのかは、まだ誰も見ていない。
アメリカでは、どこが取り締まるのかもまだはっきりしていない。FortuneやCBS Newsによると、FAA(アメリカ連邦航空局)は「航空機の定義に当たらない」と答えていて、空の乗り物としては審査しない、ということになる。車の安全を担当するNHTSA(アメリカ運輸省道路交通安全局)については、運輸省が「状況を注視する」とだけコメントしている。報道 「すべての地域で合法かどうかはわからない」と、マスク氏本人も話していたらしい(The National)。同じ記事では、運転する人に操縦の免許はいるのか、そもそも保険に入れるのか、という疑問も挙がっていた。
日本では、飛ばないPerformanceの予約を日本向けの公式サイトで受け付けていると報じられている。予約時の注文料68万円と、10日以内に払う614万円で合計682万円。報道 テスラの日本向けページには「左ハンドル仕様車のみ購入可能です」と書いてあった。発表 本体価格はまだ出ていない。条件は変わるかもしれないので、買う人は公式サイトで確かめてほしい。
調べてもわからなかったこと
何秒・何メートル飛べるのか。スラスター1個あたりの力。タンクの圧力。車の重さ。空気をため直すのに何分かかるのか。どれも、テスラは数字を出していない。
Electrekの記者は、人が乗ったまま宙返りをしたら体がその力に耐えられるのか、と疑問を書いていた。押しつけの力の発表値が車の重さに対して大きすぎないか、0から97kmまで1秒という計測のしかたは普通の測り方なのか、という指摘もある。報道
それから、このロードスター自体が2017年に初めて発表されてから、何度も発売が延びてきた車だということも書いておく。2028年に本当に出るのかは、2028年になってみないとわからない。
新しい情報が出たら、このページに書き足していく。
ついでに気になったこと
ロケットみたいに火が出るの?
出ない。噴き出しているのはただの空気。燃料を燃やさないので、排気ガスもない。
空気はどこで入れるの?
車が自分でため直す、とマスク氏は言っている。発表 ガソリンスタンドのような場所に行く必要はない、ということになる。ただ、どれくらい時間がかかるのかは未発表。
日本の道で飛べる?
日本で予約できると報じられているのは、飛ばないPerformanceだけ。報道 飛べるRocketは、アメリカでも公道で使うことを認められていない。
2018年に宇宙へ行ったロードスターと関係ある?
ある。2018年2月、マスク氏の初代ロードスターがファルコン・ヘビーという大型ロケットの初打ち上げで宇宙へ飛んだ。Space.comによると、その年の6月には、マスク氏が「車の周りに約10個の小さなロケットスラスターをつけるSpaceXオプション」を当時のTwitterで予告していた。今回の10個のスラスターは、8年越しのその答え合わせになっている。
本当に飛んだの?CGじゃない?
観客の前で実演していて、マスク氏は「AIで作った映像じゃないと証明するために観客を入れた」という趣旨のことを話している。報道 現地の様子は複数の海外メディアが伝えている。
読みあさった記事の一覧
英語の記事は、発表当日から2日間に出たものを中心に読んだ。数字が記事によって食い違うところは、テスラの発言として引用されているものを優先した。
- TechCrunch:Tesla reveals SpaceX-powered Roadster that flies and falls with style
- CBS News:With Tesla Roadster debut, Elon Musk shows "flying cars are real"
- Fortune:Tesla is taking $250,000 deposits for a Roadster with SpaceX thrusters. The FAA says it isn't an aircraft
- Space.com:SpaceX thrusters just made a Tesla Roadster 'fly'
- Electrek:Are Tesla's claims for its new 'flying' Roadster real, or is it just full of cold gas?
- Euronews:'Well, it worked': Elon Musk unveils new Tesla Roadster that can fly
- TechRadar:Tesla's 'flying' Roadster has SpaceX rocket thrusters and can hit 230mph
- The National:Up in the air: Tesla's 'flying' Roadster raises more questions than answers
- KPRC Click2Houston:Tesla's new Roadster can fly?
- テスラ公式(日本):Roadster
- セレクトラ:テスラ新型ロードスター発表、日本の予約金は682万円
- Wikipedia:Cold gas thruster
更新履歴:2026年10月17日 公開。同日、出典の書き方と一部の表現を見直し、テスラ日本向けページの記載を追加
※この記事は2026年10月17日時点の海外報道とテスラの発表をもとに、個人が調べてまとめたものです。「推測」と書いたところはわたしの考えや計算で、テスラの発表値ではありません。