車

自動車メーカーを独断と偏見で仕分けする

車の話になると、人は急に口数が増える。燃費の話をしていたはずが、気づけば「昔乗ってたあの車がさ」という思い出話にすり替わっている。

駐車場に並んだ車を眺めているだけで、その家の休日がちょっと透けて見える気がするんだよね。後ろの窓にチャイルドシートが見えたり、屋根にキャリアが載っていたり。

そこで、横を「お手ごろか、ちょい贅沢か」、縦を「家族の足か、自分の趣味か」にして、12のメーカーを勝手に並べてみた。

勝手に地図

軽からスポーツカーまで作っているメーカーを一つの点に置くのは、正直だいぶ乱暴です。名前を聞いたときに最初に浮かぶ一台と、駐車場で見かけるときの雰囲気で決めました。性能や値段をきちんと比べた地図ではありません。

トヨタ

愛知県の豊田市は、もともと挙母という名前だった。会社に合わせて市の名前が変わったわけで、話のスケールが最初から大きい。

とにかく、どこを見てもいる。信号待ちで前も後ろも横もトヨタ、という状況を経験したことがない人は、たぶんいない。ショッピングモールの駐車場で自分の車を探していたら、同じ色の同じ車が三台並んでいて、鍵のボタンを押して光ったほうに歩いていく。あれはトヨタに乗っている人の通過儀礼だと思う。

選んだ理由を聞くと「無難だから」と返ってくることが多い。でも無難をここまで大きくした会社はほかにない。もう車というより、日本の風景。

レクサス

トヨタの高級ブランドで、始まりは1989年のアメリカ。

販売店に入ると、車を買いに来たのか、ホテルにチェックインしに来たのか一瞬わからなくなるらしい。飲み物が出てきて、ふかふかのソファに沈んで、帰るころには担当の人の名前をしっかり覚えている。

家族の足の側に置いたけど、その家族はたぶん後部座席でぐっすり眠っている。中身の半分はトヨタだと知っている人ほど、なぜかエンブレムを眺める回数が多い。

ホンダ

N-BOXで、日本中の保育園の送り迎えを担当しているメーカー。同時に、レースやバイクの話になると目の色が変わる人たちのメーカーでもある。

保育園の前にずらっと並ぶN-BOXと、サーキットを走るホンダが同じ会社だということを、たまに忘れる。乗っている人も、たぶん忘れている。

地図ではほぼ真ん中に置いた。どっちの顔も本気すぎて、どっちにも寄せられなかった。

日産

同じ店にGT-Rとセレナが並んでいる。この振れ幅は、ちょっと面白い。

休日のショッピングモールで、スライドドアが開いて子どもが三人くらい転がり出てくるのは、だいたいセレナの印象。一方でGT-Rの話をする人は、目の前にGT-Rがなくても三十分は話し続けられる。

家族の足のほうに置いたのは、街で見かける数の問題。GT-Rのファンからは怒られると思う。でもGT-Rのファンも、家に帰ればたぶんセレナに乗っている。

マツダ

広島の会社。

赤い車がやたらきれいに見えるメーカー、という印象がある。ショールームの赤い車の前で、白を買うつもりで来た人が五分くらい黙り込む。その光景が、わりと簡単に想像できる。

マツダの持ち主は、デザインの話になると少しだけ声が小さくなって、そのぶん長く話す。家族のために買ったはずなのに、休日にひとりで遠回りして帰ってくる。家族の足に置くか迷って、結局は趣味の側に寄せた。乗っている本人の顔が、たぶんそっちを向いているので。

スバル

水平対向エンジンと四輪駆動の話を、聞かれてもいないのにしてくれる人たちのメーカー。ファンには「スバリスト」という呼び名まである。

スキー場の駐車場で見かける率が、妙に高い気がする。フォレスターやレヴォーグに乗っている人は、車を運転する道具というより、一緒に出かける相棒として扱っている感じ。洗車の頻度も、たぶん相棒向け。

エンブレムの六つの星は、プレアデス星団、つまり和名の「すばる」。社名を星の名前にして、マークまで星にしてくる。最初から熱量が高い。

スズキ

静岡県浜松市の会社。軽自動車と、ジムニー。

スズキの車は、町の風景に溶け込むのが本当にうまい。細い農道にも、駅前のコインパーキングにも、ちょうどいいサイズでするっと収まっている。

ただしジムニーだけは別枠。あれに乗っている人は、平日の通勤でも心はたぶん林道にいる。ジムニーを買うかどうかで家族会議を開いた家もあると思うけど、後部座席の広さは、あの四角い見た目の前ではあまり議題にならない。知らんけど。

ダイハツ

大阪の会社で、タントやムーヴといった軽自動車の印象が強い。

スーパーの駐車場で、いちばん端の狭い枠にすっと入っていくのは、だいたいダイハツ。乗っている人も、車の名前より「白いの」「水色の」で呼んでいる気がする。

地図では、いちばん家族の足の側に置いた。趣味の話をひとつもしないまま、毎日黙々と買い物袋を運んでいる。車のほうから自分を語らない、という生き方。

フォルクスワーゲン

ドイツ語で「国民の車」という意味の名前。

ゴルフに乗っている人は、輸入車に乗っていることをあまり前に出さない。「外車なんだ」と言われると、「いや、ゴルフだから」と少し照れる。その照れ方まで含めて、たぶんゴルフという車。

国産車から一歩だけ外に出てみたい人の、最初の一台という位置づけな気がしている。一歩だけのつもりが、次の車検のころにはBMWのカタログを持って帰ってくる人もいる。

テスラ

アメリカの、電気自動車だけを作っているメーカー。

車というより、タイヤのついた大きなスマホという印象がある。運転席に座ると、目の前にあるのはメーターではなく大きな画面がひとつ。ボタンがほとんどないので、初めて助手席に乗った人は、エアコンをどこで変えればいいのかしばらく探すことになる。

持ち主は、寝ているあいだに車のソフトが新しくなっていた話を、朝からうれしそうにしてくれる。ガソリンスタンドの前を通るときの横顔も、ほんの少しだけ誇らしげ。

趣味の側に置いた。家族の車として買ったはずなのに、夜中に新しい機能を試しているのは、たぶん持ち主ひとりだけなので。

メルセデス・ベンツ

丸の中に三本の線の星。あの星が駐車場の隣にいると、自分の車のドアを開けるとき、いつもよりそっと開けてしまう。

昔は「ベンツ」と聞くと黒くて大きなセダンが真っ先に浮かんだけど、いまは小さめのモデルやSUVもあって、チャイルドシートを載せて乗っている家族もよく見かける。それでも「ベンツで来た」と聞くと、聞いた側の頭の中では、まだ黒いセダンが走っている。

BMW

ドイツ・ミュンヘンの会社。正面のキドニーグリルは、腎臓の形が名前の由来だそう。

BMWに乗っている人は、「運転が楽しいから」とよく言う。家族を乗せていても、本人の頭の中ではたぶんひとりで山道を走っている。助手席の人は、そのことにうっすら気づいている。

あのグリルは、モデルが新しくなるたびに少しずつ存在感が増している気がする。駐車場で見かけるたびに、前より鼻が高い。

まとめ

並べてみてわかったのは、車選びは、自分の休日をどう過ごしたいかの自己申告みたいなものだということ。家族の足と言いながら趣味が漏れている人も、趣味と言いながら後部座席にお菓子のくずが落ちている人もいる。

次に駐車場で隣の車のエンブレムを見たら、たぶんその家の週末を勝手に想像してしまう。向こうもこっちの車を見て、同じことをしているんだと思う。

※この記事は個人の独断と偏見です