コスメ
デパコスのブランドを独断と偏見で仕分けする
デパートの1階に入ると、まず空気の匂いが変わる。化粧品売り場の、甘くて明るいあの匂い。用事は上の階にあるのに、カウンターの前だけ歩くのが遅くなる。
婚活をしていると、デパコスの使い道がやたらはっきりしてくる。初対面の人に会う日の顔を数千円で底上げできるなら、むしろ安い。そう自分に言い聞かせながら紙袋を提げて帰る人、私だけじゃないと思う。というわけで、横を「お手ごろか、贅沢か」、縦を「かわいいか、かっこいいか」にして、10のブランドを勝手に並べてみた。
勝手に地図
スチュアート ランコム ディオール コスメ
デコルテ エスティ
ローダー シャネル SUQQU NARS M・A・C イヴ・
サンローラン
定価を調べて並べたわけじゃなくて、売り場の前を通ったときの「高そう」と、パッケージや雰囲気から受ける「かわいい」「かっこいい」の印象で置いています。使い心地や品質とは関係ありません。
シャネル
デパコスと聞いて、最初に頭に浮かぶ名前。
黒と白のケースは、ポーチから出した瞬間だけ空気が変わる。デートの途中、お店の化粧室でリップを塗り直すとき、隣の鏡の人にちょっとだけ見てほしくなる。誰も見ていない。
中身を使い切っても、ケースだけ捨てられずに引き出しで眠らせている人、けっこういると思う。あれはもう化粧品じゃなくて記念品。かわいいかかっこいいかで言えば少しだけかっこいい側に置いたけど、正直シャネルはシャネルという軸の上に立っているので、こっちが用意した地図には素直に乗ってくれない。
ディオール
リップ マキシマイザーを、自分用と友達への贈り物用で年に何本買っているか。数えたことがある人は、たぶんいない。
友達の誕生日も結婚祝いも、気づけばディオールのショッパーを提げている。結婚祝いの回数が、ここ数年でやたらと増えた。もらう側に回る予定は、いまのところ立っていない。
もらった人が載せる写真の構図まで、だいたい想像がつく。ショッパーが真ん中で、箱がちょっと斜め。
イヴ・サンローラン
地図のかっこいい側の、いちばん奥にいる。金色のリップのケースは、ふたを開け閉めするたびに少しだけ強くなれる気がする。
ペンの形をしたラディアント タッチも有名で、カチカチ回して使うあれを化粧直しのたびに取り出す人は、周りから仕事ができる人だと思われている。本当にできるかどうかは、知らんけど。
婚活の日にかっこよすぎる顔で行くと相手が身構える気がして、YSLは平日担当、みたいな謎のルールを作りがち。そんなことを考えている時点で、もう全然かっこよくない。
ランコム
バラの印象がやたらと強い。
売り場の前を通ると、ピンクとゴールドがやわらかく光っていて、かわいい側に寄せて置いた。ジルスチュアートの甘さとは種類が違って、お姫さまそのものというより、お城の庭に咲いているほうのかわいさ。
プロフィール写真を撮り直す前の日なんかに、こういう売り場を通るとつい足が止まる。写真なんて加工でどうにでもなる時代なのに、なぜか顔そのものもどうにかしたくなる。
エスティ ローダー
茶色の小瓶。この呼び名だけで通じてしまうのが、もうすごい。
アドバンス ナイト リペアの正式な名前を言える人より、「茶色いやつ」で覚えている人のほうが多いと思う。洗面台に置いてあるだけで、その部屋の主が夜をちゃんと大事にしていそうに見える。実際は寝る前に塗って、そのあと二時間、マッチングアプリを眺めている。肌より先に親指が疲れる。
かわいいともかっこいいとも言いにくいので、地図のど真ん中に置いた。本人はたぶん気にしていない。
M・A・C
カナダ生まれの、黒いパッケージのブランド。
カウンターの前に立つと、色の数が多すぎて少し怖い。リップの棚を眺めているうちに、自分が何色を探しに来たのか忘れる。デパコスの中ではお手ごろな印象なので、最初の一本をここで選ぶ人も多そう。
最初の一本のつもりが、気づけば三本目を手に取っている。リップは三本すぐ決まるのに、相手はひとりも決まらない。
NARS
黒いケースに、白い文字で名前だけ。とてもそっけない。
なのにチークを開けると色がやたら元気で、そのギャップにやられる人が多い。ポーチの中でいちばん無口な顔をして、いちばん主張が強いタイプ。
人間でこのタイプに出会うと、三回目のデートあたりで気になり始めてしまう。化粧品で済ませておけば、こんなに悩まなくていいのに。
ジルスチュアート
かわいい。説明は以上、と言いたくなる。
ケースにお花や宝石みたいな飾りがついていて、置いておくだけで鏡台がひとつ明るくなる。使うたびに減っていくのが惜しくて、結局ポーチの中でいちばん減っていないのがジルスチュアートだった、という人もいると思う。化粧品なのに、使われない才能がある。
アラサーになって、このかわいさを持ち歩いていいのか一瞬だけ迷う。迷ったうえで、ちゃんと持ち歩く。かわいいものに年齢制限はないと、自分で決めた。
SUQQU
日本のブランドで、アイシャドウのパレットの印象が強い。
新色や限定の発売日が近づくと、なぜか周りが少しざわつく。手に入れた人は、まず写真を撮る。それからもう一回、角度を変えて撮る。塗るのはそのあと。
パッケージは落ち着いていて、派手に名乗ったりしない。なのに知っている人の間ではちゃんと有名。婚活のプロフィールで出したいのはまさにこういう感じなんだけど、自分で「控えめです」と書いた時点で、もう控えめではなくなっている。
コスメデコルテ
コーセーのブランドで、モイスチュア リポソームという美容液の名前をよく聞く。
デパコスの中では、メイクよりスキンケアの印象が強い。売り場で肌の相談をしているうちに、手の甲がしっとりしてくる。帰り道、なぜかその手の甲だけずっと触っている。
ボトルのやさしい色に引っぱられて、かわいい寄りの、少しお手ごろな側に置いた。ただAQのラインの値段を見ると、横軸がいきなり右へ持っていかれる。ひとつの名前のまま地図の端から端まで動けるブランドは、なかなかない。婚活の条件も、このくらい幅を持たせたほうがいいのかもしれない。
まとめ
並べてみてわかったのは、デパコスは顔に塗るものというより、気分を切り替えるスイッチに近いということ。かわいいケースで機嫌をとる日もあるし、かっこいいリップで自分を奮い立たせる日もある。初対面の人に会う前の化粧室で、鏡の中の自分に「今日はいける」と思わせてくれるなら、多少高くても元は取れている。
地図の右側ばかり眺めていたら、顔より先に財布がすっぴんになりそうなので、今日はこのへんで。次のデートの予定は、まだ入っていない。
※この記事は個人の独断と偏見です