イヤホンのブランドを独断と偏見で仕分けする
イヤホンは、身につけるものの中でいちばん小さいのに、いちばん長く体に触れているものかもしれない。朝の電車から夜の寝落ちまで、気づいたら一日の半分くらい耳の中にいる。
小さいわりに、値段の幅がおかしい。数千円のものと四万円近いものが同じ棚に並んでいて、どっちも白くて丸い。値札を見ないと区別がつかないのに、持ち主どうしはなぜか一瞬で見分けている。
そこで、横を「お手ごろか、高めか」、縦を「音にこだわるイメージか、音以外が売りのイメージか」にして、10のブランドを勝手に並べてみた。
下のほうにいるからといって、音がどうこうという話ではないです。名前を聞いたときに、会話が音の話から始まるか、ほかの話から始まるか。それだけの地図。
勝手に地図
テクニカ Technics Sony Bose JBL Anker AirPods Shokz Beats
縦は音のよしあしではなく、そのブランドの話になったとき最初に出てくるのが音の話か、それ以外(つなぎやすさ、静けさ、色、耳をふさがないことなど)かで決めました。どのブランドにも数千円台から数万円台まで色々なモデルがあるので、一つの点に置くのはかなり乱暴です。
Apple(AirPods)
ひとことで:イヤホンというより、iPhoneの一部が耳に引っ越したもの。
こんな人に合いそう:設定画面を開かずに、ケースのふたを開けるだけで済ませたい人。
電車の向かいの席を見渡すと、耳から白い棒が下がっている人が、だいたい片手では数えきれない。
AirPodsは、選んだというより、iPhoneを買った流れで自然にそうなった人が多いイメージ。ケースのふたを開けると画面にぽこっと表示が出て、それで接続が終わる。あの数秒のために買っている人も、たぶん少なくない。
地図では真ん中より少し高めの、音以外が売りの側に置いた。売りはたぶん「何も考えなくていい」こと。音の感想を聞いても「普通にいいよ」で終わるのに、乗り換えの話をすると急に「いや無理」と真顔になる。
片耳だけ行方不明になって、夜中にソファのすき間に手を突っ込む。あれも込みで、AirPodsを持つということなんだと思う。
寄り道耳がAirPodsなら、手首もたぶんApple。腕時計の回では、Apple Watchをロレックスと同じ地図に置いた。
Sony
ひとことで:家電量販店のイヤホン売り場で、いちばん広い面積を持っている会社。
こんな人に合いそう:迷ったら「日本のメーカーのいいやつ」で決めたい人。
Sonyのイヤホンは、型番がとにかく長い。アルファベットと数字が十文字くらい続いて、店員さんも一回メモを見る。それでも「ソニーのいちばんいいやつ」で話が通じるので、型番を覚えている客はそんなにいない。
ノイズキャンセリングの印象が強くて、地図では高めの、音にこだわる寄りに置いた。音の話も機能の話も両方できるので、ちょうど真ん中より上くらい。どこに置いても文句を言われなさそうな位置が、そのままソニーらしい気がする。
ウォークマン世代の親と、同じブランドの話で盛り上がれる数少ない家電でもある。ただ、最上位を買ったはずなのに、翌年には型番の最後の数字がひとつ増えている。
Bose
ひとことで:音を足すより、まわりの音を消すほうで名前を覚えられた会社。
こんな人に合いそう:新幹線や飛行機で、とにかく静かになりたい人。
アメリカの音響メーカー。なのに、Boseの話になると、なぜか音より静けさの話から始まる。
出張の帰り、隣の席の人がつけていたのを見て、空港の売店で買ってしまった人がいそう。つけた瞬間に機内のゴーという音がすっと遠くなって、思わず隣の人のほうを見る。向こうは知らん顔で寝ている。
地図では高めで、真ん中より少し上に置いた。音にこだわっているのは間違いないんだけど、払っているお金の行き先が「何も聞こえない時間」なのがおもしろい。お金を払って無音を買う。考えるとちょっと禅。
Anker(Soundcore)
ひとことで:充電器の会社だと思っていたら、イヤホンも出していた。
こんな人に合いそう:なくしても立ち直れる値段で、機能は一通りほしい人。
Ankerと聞いて最初に浮かぶのは、たぶんモバイルバッテリー。イヤホンはSoundcoreという名前で出していて、通販サイトのランキングで見かけたことがある人は多いと思う。
値段のわりに、ノイズキャンセリングもアプリもついてくる。商品ページの機能の一覧がとにかく長くて、読み終わるころには買う気になっている。地図ではいちばんお手ごろな、音以外が売りの側に置いた。売りは「この値段でこれ全部」という驚きのほう。
気づいたら、カバンの中の充電器もケーブルもバッテリーも全部Anker。ここまでくると、もう持ち物というより生活のインフラ。
JBL
ひとことで:イヤホンなのに、どこか屋外の匂いがするアメリカのブランド。
こんな人に合いそう:スピーカーとイヤホンを同じロゴでそろえて、休日は外で過ごしたい人。
JBLは、イヤホンより先に、丸いBluetoothスピーカーで知った人が多い気がする。河原のバーベキューで、クーラーボックスの上にちょこんと乗っているあれ。
そのせいか、JBLのイヤホンをしている人は、一人で聴いているのに、どこかでみんなに聴かせたい気持ちが残っているように見える。低音が元気というイメージもあって、通勤中に頭だけ少し揺れている。
地図ではお手ごろ寄り、真ん中より少し下に置いた。オレンジ色のロゴを見ると、平日なのに少しだけ週末の気分になる。
Beats
ひとことで:イヤホン売り場より、ファッション小物の棚にいそうなブランド。
こんな人に合いそう:音より先に、耳元の色を決めたい人。
Beatsは色を選ぶブランドだと思う。カラーバリエーションが多くて、売り場の前で十分悩んだ人の話の中身は、だいたい色。
大きなヘッドホンを首にかけて街を歩いている姿がまず浮かぶ。聴いていない時間も、首元でちゃんと仕事をしている。地図ではいちばん下の、高めの側に置いた。いまはAppleのグループのブランドなので、AirPodsとは親戚にあたる。
同じ家の子なのに、AirPodsの人は通勤電車にいて、Beatsの人はスタバのテラス席にいる。兄弟でここまで似ないのも珍しい。
オーディオテクニカ
ひとことで:音にうるさい人が、財布にもうるさいときに選ぶ日本のメーカー。
こんな人に合いそう:音はちゃんとしたいけど、イヤホンに一万円以上は出したくない人。
中学生のころ、初めてお小遣いで「ちゃんとしたイヤホン」を買ったら、それがオーディオテクニカだった。そういう人、けっこういると思う。
レコードの針やマイクも作っている会社で、機材の棚で見かける名前という印象がある。そのイメージのまま、手が届く値段のイヤホンも並べているので、地図では音にこだわる側のいちばんお手ごろなところに置いた。
置いてみたら、この地図の中でいちばん賢そうな場所になった。左上は、たぶん家計簿をつけている人の席。
Technics
ひとことで:パナソニックが、本気の音のときだけ出してくる名前。
こんな人に合いそう:家のオーディオ棚からイヤホンまで、同じ系譜でつなげたい人。
Technicsはパナソニックのオーディオブランド。DJのターンテーブルでこの名前を知った人も多いと思う。
パナソニックの名前で出さずに、わざわざTechnicsで出してくる。その時点で「これは家電じゃなくて音です」と言われている気がして、ちょっと背筋が伸びる。地図では音にこだわる側の、高めに置いた。
でもよく考えると、実家の炊飯器と同じ会社のものを耳に入れている。そう思うと、急に落ち着く。
Sennheiser
ひとことで:音の話になると、急に名前が出てくるドイツの老舗。
こんな人に合いそう:イヤホンの感想を「音場」という単語から始めたい人。
まず、読み方で一回つまずく。ゼンハイザー。ドイツの音響メーカーで、名前を正しく読めた時点で、なんとなく会話の入り口に立てた気がする。
持っている人に感想を聞くと、「解像度」「音場」「定位」みたいな単語が出てきて、聞いた側は相づちのタイミングを失う。こっちは「いい音」以外の語彙を持っていない。
地図ではいちばん上の、いちばん右に置いた。値段を聞くと、たぶん聞いた側の耳のほうが痛くなる。
Shokz
ひとことで:耳をふさがない、という一点で地図の端まで行ったブランド。
こんな人に合いそう:走りながら、車の音や駅のアナウンスも聞いておきたい人。
朝の河川敷で、ランナーの耳の前あたりに、細いバンドみたいなものがついているのを見たことがあると思う。だいたいShokz。
耳の穴に入れずに聴く骨伝導のイヤホンで知られていて、地図ではいちばん下に置いた。これは音が悪いという意味ではなくて、勝負している場所がそもそも違う。ほかのブランドが外の音をどれだけ消せるかを競っているあいだに、外の音を聞こえたままにする方向へ一人で進んでいった。
イヤホンの話をしているのに、Shokzの人の口から出てくるのはだいたい「耳が蒸れない」「ずっとつけてても痛くない」。音の話は、聞かれたら答える。
話しかけると普通に返事が来るので、こっちはイヤホンをしている人に話しかけていいのか、毎回ちょっとだけ迷う。
まとめ
並べてみたら、イヤホン選びは何を聴きたいかより、何を聞きたくないかで決まっている気がしてきた。電車の音を消したい人もいれば、設定画面を見たくない人もいる。車の音だけは消したくない人もいる。
どのブランドを選んだ人も、家に帰ってイヤホンを外した瞬間、冷蔵庫の音がやけに大きく聞こえる。あの音だけは、たぶんどこのイヤホンも消してくれない。
※この記事は個人の独断と偏見です