服

ハイブランドを独断と偏見で仕分けする

ハイブランドの話になると、私はいつも少しだけ背筋が伸びる。持っているからじゃない。持っていないからだ。

三十代、独身、絶賛婚活中。初対面の人とカフェで会う前の晩は、服よりも先にバッグで悩んでいる気がする。ロゴがばっちり見えるバッグにするか、わかる人にだけわかるバッグにするか。たぶん相手はそこまで見ていない。見ていないとわかっていても、クローゼットの前で20分は立ち尽くす。

というわけで今回は、横を「まだ手が届く」か「雲の上」か、縦を「ロゴで主張する」か「ロゴなしで匂わせる」かにして、10のブランドを勝手に並べてみた。

勝手に地図

値段を調べて並べたわけじゃなくて、名前を聞いたときの「高そう」と「ロゴが目に入るかどうか」の印象で置いています。同じブランドでもロゴのない商品はたくさんあるし、品質とも関係ありません。

ルイ・ヴィトン

茶色に金色の模様、と言っただけで、ブランドに興味がない人でもたぶん同じバッグを思い浮かべる。

ロゴをそのまま柄にしてしまったモノグラムは、考えてみるとかなり大胆な発明だと思う。バッグの全面が名刺。街ですれ違う回数が多すぎて、もはや「持ってる」というより「いる」に近い。

あれを持って婚活の場に行ったら、相手は何も言わないけど、心の中でちょっとだけ私の金銭感覚を計算していそうな気がする。知らんけど。

エルメス

地図の右端の、さらに奥に置いた。

もともとは馬具の工房から始まったブランドで、いまでも馬のモチーフがあちこちにいる。バーキンやケリーの名前はみんな知っているのに、お店で「これください」と言って買えた人の話は、なぜかほとんど聞かない。買い物というより、ご縁。こちらがどれだけ望んでもすぐには来てくれないあたり、婚活とよく似ている。

オレンジの箱だけでも嬉しい、という気持ちはすごくわかる。私も箱だけなら欲しい。

シャネル

二つのCが背中合わせに重なったマークは、遠くからでも見つけられる。

キルティングのバッグに金色のチェーン。あれを肩にかけた瞬間、背筋が勝手に3センチ伸びそう。カフェのテーブルに置けば、テーブルの格まで上がる気がする。

ただ、値段が少しずつ上がっていくイメージも強くて、「あのとき買っておけばよかった」という話を聞く頻度は、たぶん全ブランドでいちばん多い。バッグの話をしていたはずなのに、気づくと不動産の話みたいになっている。

グッチ

1921年にイタリアのフィレンツェで生まれたブランド。

緑と赤のラインに、GGの柄。グッチは昔から、かっこいいとかわいいの間を全力で行き来している印象がある。上品にまとまる気は、たぶんあんまりない。

持っている人は、地味な服の日に限ってグッチを一点だけ足している気がする。全身で主張するより、一点で主張するほうが効くことをよく知っている人の持ち方。そしてその一点が、だいたい会話の最初の話題をさらっていく。

ディオール

大きくDiorと入ったトートに、自分の名前まで入れてもらえると知ったとき、ちょっとだけ心が揺れた。

ブランド名を見せたうえで、さらに自分の名前も見せる。主張に主張を重ねる、なかなか強気な買い物だと思う。それでも地図では少し下のほうに置いた。ディオールの服やバッグは、ロゴよりもシルエットで覚えられている気がするから。

ただ正直に言うと、私の中のディオールは、いまだに半分くらいリップの色でできている。デパートの一階で会いすぎた。

フェンディ

バゲットという名前のバッグがある。フランスパンみたいに脇に抱えて持つから、という名前の由来がもうかわいい。

FFが並んだ柄はちゃんとロゴなのに、ヴィトンほど「ロゴです」という顔をしていない。主張はしているけど、声が大きくない。地図の真ん中あたりに置いたのは、そういう意味。

持っている人は、たぶん「それどこの?」と聞かれてから答えるタイプ。聞かれなかった日の帰り道は、ちょっとだけ寂しそう。

プラダ

黒いナイロンに、小さな三角のプレート。

ハイブランドなのにナイロン、というのが昔は不思議だった。軽くて雨の日も気にしなくていいから、気づくと毎日それを持っている人がいる。三角のプレートはあんなに小さいのに、見つけた瞬間に「あ、プラダ」とわかるのがすごい。ロゴの面積と存在感が、まったく比例していない。

初対面の日に持っていくなら、たぶんいちばん無難な選択。無難すぎて、相手の記憶にバッグごと残らない可能性もある。

ボッテガ・ヴェネタ

ロゴがない。ほんとうにない。

細く切った革を編み込んだ柄だけで、遠くからでもボッテガだとわかる。昔の広告で「自分のイニシャルだけで十分」という意味の言葉を使っていたと知って、ずいぶん強気なことを言うブランドだなと思った。名前を見せなくても伝わる人だけが持てるバッグ、という感じがする。

私が持ったら、たぶん「そのバッグかわいいね、どこの?」と聞かれる。匂わせたつもりが匂わなかったときの気まずさは、想像するだけで胃が痛い。

バレンシアガ

ここ数年で、いちばんイメージが変わったブランドかもしれない。

ロゴが大きく入ったキャップや、びっくりするくらいごついスニーカー。上品なハイブランドというより、仲間内でいちばん尖っている友だちみたいな存在になった。ファッションが好きな人ほど、どこまでついていけるかを試されている気がする。

初対面の場に全身バレンシアガの人が来たら、私はたぶん話題には困らない。困るのは、二回目に何を着ていけばいいかのほう。

コーチ

ニューヨーク生まれのブランドで、ハイブランドの入り口、という印象が強い。

Cの字が並んだ柄を見ると、「初めてのボーナスで買ったバッグ」という言葉が自然に浮かぶ。誰の思い出でもないのに、なぜか浮かぶ。地図の左端に置いたのは、まだ手が届くから。手が届くというのは、婚活でもバッグでも、実はかなり大事なことだと思っている。

しかも最近は、コーチの革小物をさらっと使っている人がやけにおしゃれに見える。入り口のつもりで入ったら、そのまま住みついている人も多そう。

まとめ

並べてみて思ったのは、ハイブランドって結局、ロゴを見せたいか隠したいかの性格診断みたいなものだということ。見せたい日もあれば、隠したい日もある。私の場合は、その日に会う相手によって変わる。

そしてさんざん悩んだ末に、たぶん初対面のカフェにはいつものトートで行く。ロゴはどこにも入っていない。匂わせているわけではなく、単に持っていないだけなんだけど。

※この記事は個人の独断と偏見です