ダークウェブってそもそも何なのか、ニュースのたびに気になっていたので調べてみた

会社がサイバー攻撃を受けたというニュースには、だいたい同じ一文がついてくる。「盗まれた情報が、ダークウェブ上で公開された」。

警察庁の報告書にも、そのまま書いてあった。会社の財務情報や個人情報が「ダークウェブ上のリークサイトに掲載される事例が多数確認されている」。リークサイトは、盗んだ情報をさらすためのサイトのことらしい。

毎回なんとなく読み流していたけれど、ある日ふと思った。ダークウェブって、どこにあるんだろう。インターネットの地下室みたいなものなのか、それとも別のネットなのか。わたしのメールアドレスも、そこに並んでいたりするんだろうか。

気になりはじめると止まらない性格なので、Torの開発元の説明や、アメリカの司法省の発表、警察庁の資料、海外の報道を読みあさってみた。

先に書いておくと、この記事にはダークウェブへの行き方は書いていない。わたし自身も見に行っていない。仕組みと、ニュースになった出来事と、普通に暮らしている人が気をつけることだけを調べた。

文中のラベルの意味

発表Torの開発元、国や警察、捜査機関、会社などが公表していること

報道新聞や専門メディアが伝えていて、公的な資料では確かめきれなかったこと

推測わたしの推測、たとえ話、ざっくりしたイメージ

読みあさった主な資料

The Tor ProjectTor Metricsアメリカ司法省・内国歳入庁警察庁IPA(情報処理推進機構)GoogleFreedom of the Press FoundationNPRMIT Technology ReviewAl JazeeraITmediaJ-CAST

どの資料に何が書いてあったかは、本文の中といちばん下の一覧に書いた。

先に、調べてわかったことを3行で

ダークウェブは、Tor(トーア)のような特別なソフトを通さないと見られないサイトのこと。ふつうの検索に出てこないだけのページ(メールの受信箱やネットバンキングの画面)は「ディープウェブ」と呼ばれて、こちらは怪しくもなんともない。

Torは、データに暗号を3重にかけて、世界中のボランティアが動かしている中継用のコンピューター(中継点)を3つ通して送る仕組み。どの中継点も「誰から来たか」と「どこへ行くか」の両方は知らない。もともとは米海軍の研究所で生まれた技術だった。

違法な取引の場として何度も摘発されてきた一方で、BBCやニューヨーク・タイムズ、検閲(国がネットの情報を見せないようにすること)のある国の人も使っている。普通の人にとって大事なのは、ダークウェブそのものより、流出した自分のパスワードを「もう使えない情報」にしておくことだった。

インターネットには3つの層がある、らしい

調べはじめて最初に出てくるのが、この氷山の図だった。海外の解説記事は、ほぼ全部これから始まる。

サーフェスウェブ 検索で出てくるページ ニュース、お店、このサイト ディープウェブ ログインしないと 見られないページ メールの 受信箱 ネット バンキング ダークウェブ 特別なソフトでしか 見られないサイト
よく使われるたとえを、わたしが描き直した図。大きさの比はイメージで、正確な割合ではない。

いちばん上の、海面から出ている部分が「サーフェスウェブ」。検索すると出てくるページのこと。ニュースサイトも、ネット通販の商品ページも、このサイトもここにいる。

海の中の大きな部分が「ディープウェブ」。名前のせいで怪しく聞こえるけれど、中身はものすごく地味だった。メールの受信箱、ネットバンキングの残高の画面、会社の社内システム、動画サービスのマイページ。ログインしないと見られないから検索に出てこない、というだけのページたちで、わたしも毎日ディープウェブを見ていることになる。

ディープウェブの大きさについては、2001年にアメリカの会社が「サーフェスウェブの400〜550倍」と見積もった調査がよく引用されている。報道 ただ、25年前の数字だし、ログインの先の量なんて誰も正確には数えられない。氷山の大きさは「ものすごく大きい」くらいに受け取っておくのがよさそう。推測

そして底の小さな部分が「ダークウェブ」。ここだけは、入り方そのものが違う。

ディープウェブは、SafariやChromeのような、ふつうのブラウザ(サイトを見るためのアプリ)で、IDとパスワードを入れれば見られる。ダークウェブのサイトは、ふつうのブラウザで住所を打ちこんでも開かない。Tor(トーア)という特別なソフトを通したときだけ開く。ニュースで「ダークウェブ」と出てきたら、だいたいはこのTorを通して見るサイトの話だと思ってよさそうだった。推測

層見るのに要るもの例
サーフェスふつうのブラウザニュースサイト、お店のサイト
ディープふつうのブラウザと、ログインメールの受信箱、ネットバンキング
ダークTorのような特別なソフト住所が「.onion」で終わるサイト

つまり、ディープとダークを分けているのは、怪しさではなく入り方だった。「ディープウェブ=ヤバいところ」と思っていたわたしは、自分の受信箱を勝手に危険地帯にしていた。

そうなると、次に気になるのはTorのほう。ダークウェブを知るには、まずTorが何をしているのかを知らないと始まらないらしい。先に結論だけ書くと、Torの仕事は大きく2つあった。

1つは、ふつうのサイトを、自分の居場所を隠したまま見ること。もう1つは、Torを通さないと開けないサイトを置いておけるようにすること。この2つ目のサイトたちが、ダークウェブと呼ばれている。発表 次の章では1つ目の仕組みから順に見ていく。

Torは、何をしているのか

Torは、ネットで自分の居場所を隠すためのソフトで、無料で配られている。報道 名前は「玉ねぎルーティング(onion routing)」という技術から来ていて、開発元によると、もとは略語だったそうだ。発表 ルーティングは、通信を次へ次へと渡していく道順を決めること。なぜ玉ねぎなのかは、仕組みを知るとすぐわかる。

ふつうにサイトを見るとき、わたしのスマホやパソコンから出たデータは、プロバイダ(家の光回線やスマホの通信会社のような、ネットにつなぐ契約をしている会社)を通って、ほぼまっすぐサイトに届く。サイトの側には、わたしの「IPアドレス」が届く。IPアドレスは、ネットにつながっている機械につく住所のような番号で、だいたいの地域や、契約しているプロバイダがわかる。

Torを使うと、ここに3つの中継点が入る。中継点は、データを受け取って次へ渡すだけのコンピューターで、あとで書くように世界中のボランティアが動かしている。Torの開発元の説明では、通信はいくつもの中継点(リレー)をランダムな道順で通り、それぞれの中継点は「どの中継点から受け取ったか」と「どの中継点に渡すか」しか知らない。発表

データ 入口用の暗号 中継用 出口用 1 入口が外側を外す 次は「中継」とわかる 2 中継が次を外す 次は「出口」とわかる 3 出口が最後を外す 行き先のサイトがわかる
Torの開発元の説明をもとに、わたしが単純にした図。暗号は中継点ごとに別の鍵でかかっている。

暗号は、決まった鍵を持っている人にしか読めない形に、データを変えておくこと。Torを使うと、送るデータに暗号が3重にかかる。いちばん内側が「出口用」、その外が「中継用」、いちばん外が「入口用」。それぞれの暗号は、その中継点の鍵でしか外せない。

入口は、いちばん外側の暗号を外して、次に渡す先が「中継」だとわかる。データがわたしから来たことは知っているけれど、内側の暗号は外せないので、最終的な行き先はわからない。

中継は、次の暗号を外して、渡す先が「出口」だとわかる。入口から来たことしか知らない。わたしのことも、行き先のサイトも知らない。

出口は、最後の暗号を外して、行き先のサイトにデータを届ける。行き先はわかるけれど、それが誰から来たのかは知らない。

中継点を通るたびに暗号が1枚ずつむけていく様子が、玉ねぎの皮に見える。だから玉ねぎ。開発元の説明でも、中継点ごとに別々の暗号の鍵を使うことになっている。発表

あなた 入口 中継 出口 サイト あなた 知ってる あなた 知らない あなた 知らない 行き先 知らない 行き先 知らない 行き先 知ってる 両方を知っている中継点はひとつもない
Torの開発元の説明をもとに、わたしが単純にした図。道順は10分くらいで新しいものに変わる。

このおかげで、どの中継点をのぞいても「この人がこのサイトを見た」という組み合わせは出てこない。さらに、同じ道順を使うのは10分くらいの間だけで、そのあとの通信は新しい道順になるそうだ。発表

中継点を動かしているのは、世界中のボランティア。Torの利用状況を公開しているTor Metricsによると、2026年10月19日の時点で中継点はおよそ8,900台、それとは別に、一覧に載らない「ブリッジ」と呼ばれる隠れた入口がおよそ2,450台あった。発表 1日の利用者は、同じ集計の推計で約370万人。日本からは約4万2千人だった。発表

370万人というと多く聞こえるけれど、世界のネットの利用者を50億人あまりとすると、0.1%にも届かない。満員の東京ドーム(約4万人)に置きかえると、30人くらいになる計算。推測

.onionのサイトは、中継点が6つになる

ここまでが、Torの1つ目の仕事、Torを通して「ふつうのサイト」を見るときの話。ここからが2つ目の仕事で、ダークウェブと呼ばれているのはこちら。住所が「.onion」で終わるサイトのことだった。ふつうのサイトの住所が「.com」や「.jp」で終わるのと同じ場所に「.onion」がつく。開発元はこれを「オニオンサービス」と呼んでいる。

オニオンサービスでは、見る人だけでなく、サイトの側も自分の場所を隠す。開発元の解説によると、見る人が3つ、サイトが3つの中継点を選び、合わせて6つの中継点でつながる。見る人が選んだ中継点のひとつが「合流地点」になって、そこで両方からの道がつながる。中身は最初から最後まで暗号のまま運ばれる。発表

あなた 1 2 3 4 5 6 サイト 合流地点 あなたが選ぶ3つ サイトが選ぶ3つ お互いに、相手の場所を知らないままつながる
Torの開発元の解説をもとに、わたしが単純にした図。1〜3はあなたが、4〜6はサイトが選ぶ中継点。番号はわたしがつけた。

サイトを置いている人の場所もわからないので、捜査機関からすると、どこにサーバー(サイトのデータを置いて配っているコンピューター)があるのか突き止めにくい。違法な取引の場がここに集まりやすかった理由は、たぶんこれだと思う。推測

中継点ごとに、何が見えているのか

文章だけだと、誰が何を知っているのかがすぐごちゃごちゃになった。なので、データを1か所ずつ進めて、それぞれの場所から何が見えているかを確かめられるようにした。

使う前に、言葉をひとつだけ。ブラウザのアドレス欄に鍵のマークが出るサイトは「HTTPS」という仕組みで、サイトと自分のあいだの中身に暗号がかかっている。Torとは別の仕組みで、下のシミュレーターでは、あるなしを切り替えられる。

データを1か所ずつ進めてみる

見方を選んで「次へ渡す」を押すと、データが1か所ずつ進む。途中の場所を押すと、そこから見えることがわかる。Torの開発元の説明をもとに、わたしがかなり単純にした模型で、実際のTorの動きをそのまま再現したものではない。

    ―

    来たところ
    ―
    次に渡す先
    ―
    中身
    ―

    プロバイダは、ネットにつなぐ契約をしている会社。.onionのサイトは、中身が最初から最後まで暗号で運ばれるので、鍵マークのあるなしで結果は変わらないようにしている。

    いろいろ押してみてわかったのは、Torを使っていても、プロバイダには「Torを使っていること」自体は見えている、ということだった。開発元の説明でも、Torを使っているかどうかは見える情報のひとつに入っている。発表 何を見たかは隠せても、隠していること自体は隠せない。

    もうひとつは、鍵マークのないサイトをTorで見ると、出口から中身が見えてしまうこと。Torは「誰が」を隠す道具で、「何を書いたか」を守るのは鍵マークのほうの仕事らしい。推測

    生まれは、アメリカ海軍の研究所

    調べていちばん意外だったのが、ここだった。Torの元になった技術は、アメリカ海軍の研究所で生まれている。

    1995米海軍研究所で玉ねぎルーティングの研究 2002Torが動き出し、プログラムを公開 2004電子フロンティア財団(EFF)が支援 2006非営利団体のTor Projectができる 2008Tor Browserの開発が始まる 2010〜アラブの春で、身元を守るのに使われる 2013スノーデン氏の内部告発で使われる
    Torの開発元が公開している歴史のページをもとに、わたしがまとめた年表。

    開発元の歴史のページによると、1995年に米海軍研究所の研究者たちが、通信をいくつものサーバーに通して、そのたびに暗号をかける「玉ねぎルーティング」の最初の設計と試作をつくった。発表 2002年10月にTorのネットワークが動き出し、プログラムは誰でも使えて中身も見られる「オープンソース」として公開された。2003年の終わりの時点で、中継点はアメリカを中心に十数台しかなかったそうだ。発表

    そのあと、2004年にネット上の人権を守る活動をしている電子フロンティア財団(EFF)が開発を支援しはじめ、2006年に非営利団体のTor Projectができた。2007年には、政府がネットを遮断している国の人のための隠れた入口(ブリッジ)の開発が始まり、2008年には、Torを使ってサイトを見るための専用のブラウザ「Tor Browser」の開発が始まっている。発表

    2010年の終わりから広がった、中東の民主化運動「アラブの春」では、身元を隠しながら、ブロックされたSNSやサイトを見るのに使われた。2013年には、アメリカの情報機関の監視を告発したスノーデン氏が使っていて、開発元によれば、このとき流出した文書からは、当時のTorが破られていなかったこともわかったという。発表

    軍が生んだ技術を、人権団体が育てて、民主化運動と内部告発者が使う。並べてみると、ずいぶん遠くまで来ている。

    ちなみに、なぜ軍がわざわざ一般公開したのか。海外の解説でよく見かけた説明は、「軍の人しか使っていなかったら、Torを使っている時点で軍の人だとばれる。隠れるには、いろんな人に使ってもらう必要があった」というものだった。木を隠すなら森の中、ということだと思う。推測

    ニュースになった、大きな摘発

    ここからは、ダークウェブが「怖い場所」として知られるようになった出来事を、捜査機関の発表と報道から並べる。どれも、すでに閉鎖されたサイトの話。

    シルクロード(2011〜2013年)

    ダークウェブの話になると、必ず最初に出てくる名前だった。報道によると、2011年2月に始まった違法な品物の取引サイトで、約3年のあいだに当局の見立てで2億ドルを超える取引があった。報道

    2013年10月、運営者が逮捕されてサイトは閉鎖された。運営者は2015年に、資金洗浄(犯罪で得たお金の出どころをわからなくすること)や麻薬の取引などの罪で、仮釈放のない終身刑を言い渡されている。報道 2021年11月には、アメリカ司法省が、このサイトから盗まれていたビットコイン(ネット上でやりとりされるお金の一種で、暗号資産と呼ばれる)5万676枚を押収した。報道 そして2025年1月、運営者はトランプ大統領から恩赦(大統領の権限で刑を許すこと)を受けて釈放された。11年あまり服役したあとだった。報道

    アルファベイとハンザ(2017年)

    2017年7月、アメリカ司法省は「史上最大のダークネット摘発」を発表した。ダークネットは、ダークウェブとほぼ同じ意味で使われる言葉。閉鎖されたアルファベイには、違法な薬物や有毒な化学物質の出品が約25万件、それ以外の違法な品物の出品が10万件以上あったとされる。FBI(アメリカの連邦捜査局)は、シルクロードの約10倍の規模だったと説明している。報道 同じ作戦で、別の取引サイトのハンザも閉鎖された。3つの大陸の6か国ほどの捜査機関が関わったという。報道

    ヒドラ(2022年)

    2022年4月5日には、ロシア語圏の巨大な取引サイト「ヒドラ」のサーバーを、ドイツの連邦刑事庁がアメリカと連携して押収した。アメリカ内国歳入庁(日本の国税庁にあたる役所)の発表によると、2021年のダークネットの取引サイトがらみの暗号資産の動きのうち、およそ8割がヒドラだった。2015年からの受け取りは約52億ドルにのぼり、約2,500万ドル分のビットコインが押収された。発表

    シルクロード(約3年) 2億ドル超 ヒドラ(2015〜2022年) 約52億ドル 棒の長さは金額に合わせた(わたしの作図)
    シルクロードは報道による当局の見立て、ヒドラはアメリカ内国歳入庁の発表による受け取りの総額。数え方が同じではないので、規模の感じをつかむための図。

    ジェネシス・マーケット(2023年)

    2023年4月には、FBIとオランダ警察が中心になった国際的な作戦で、ジェネシス・マーケットが閉鎖された。ここで売られていたのは品物ではなく、ウイルスに感染したパソコンから抜き取られた、ログイン情報やCookie(サイトがログイン状態を覚えておくための小さなデータ)のセットだった。報道

    イギリスの国家犯罪対策庁によると、約200万人から盗まれた約8,000万件のログイン情報などが扱われていて、17か国が作戦に加わり、約120人が逮捕された。報道 パスワードだけでなく、ログイン状態そのものを売っていたので、パスワードのあとにスマホに届く番号を入れるような、2段階のログイン(多要素認証)をすり抜けるのに使えたという。この話は、あとの「自分の情報は大丈夫?」の章につながる。

    日本でも

    日本でTorの名前が広く知られたのは、2012年の「PC遠隔操作事件」だったと思う。推測 他人のパソコンを遠隔操作して、ネットに犯罪予告を書き込んだ事件で、4人が誤認逮捕された。逮捕された男性は、接続元を隠すためにTorを何度も使っていたと報じられている。報道 匿名化の道具が悪用されると、無関係の人が疑われることもある。いちばん重い教訓は、たぶんこれだった。推測

    2018年1月には、暗号資産の取引所コインチェックから約580億円相当のNEM(ネム、暗号資産の一種)が流出した。そのあと、盗まれたNEMを割安でほかの暗号資産と交換すると持ちかける、.onionのサイトへの誘導が見つかったと報じられた。報道 2020年3月には、ダークウェブ上で流出したNEMだと知りながらビットコインと交換したとして、男性2人が組織犯罪処罰法違反の疑いで逮捕されている。報道

    並べてみて気づいたのは、どれも結局は捕まったり閉鎖されたりしている、ということだった。報道を読むかぎり、Torの暗号そのものが破られたという話より、お金の流れや、運営する人の側の手がかりから追いつめられた、という話のほうが多い。推測 匿名は、思っているほど無敵ではないらしい。

    ダークウェブの、まともな使われ方

    ここまで読むと、Torは犯罪のための道具に見えてくる。ところが、調べていくと、大手の報道機関やSNSの会社が、わざわざ.onionのサイトをつくっていた。

    2014年、Facebookが.onionのサイトを公開した。MIT Technology Reviewによると、もともとTorで使っている人が多く、自動の防犯の仕組みがそういう人をブロックしてしまうことがあったのが理由のひとつだった。Torの開発元は、イランや中国のようにFacebookが遮断されている国の人を含め、数十万人がTorで使っていると説明していた。報道

    2019年10月には、イギリスのBBCが.onionのニュースサイトを始めた。NPRによると、中国やイラン、ベトナムではBBCのサイトが遮断されたり、遮断されかけたりしていて、そういう国の人にもニュースを届けるためだった。ニューヨーク・タイムズも.onionのサイトを持っている。報道 このとき、ニューヨーク・タイムズの.onionのサイトづくりを手伝った技術者は、「ダークウェブというのは悪いイメージのレッテルにすぎない。『より安全なウェブ』と呼んでもいい」と話していた。報道

    内部告発の窓口にも使われている。報道の自由を守る活動をしているアメリカの非営利団体Freedom of the Press Foundationは、匿名の情報提供者から報道機関が資料を受け取るためのソフト「SecureDrop」をつくっていて、その受付窓口はオニオンサービスになっている。発表

    逆に、政府の側がTorを止めようとすることもある。2021年12月、ロシアの通信の監督官庁がTorの公式サイトを遮断した。報道によると、当時ロシアはTorの利用者の15%を占めていて、アメリカに次ぐ2番目に多い国だった。開発元は、一覧に載らない入口のブリッジを増やすよう、ボランティアに呼びかけている。報道

    つまり、同じ道具が、取引サイトにとっては捜査から逃げる穴で、検閲される側にとってはニュースに届く抜け道になっている。包丁と同じで、道具だけを見て善い悪いを決めるのは難しい、というのがわたしの感想だった。推測

    普通の人にとってのダークウェブ(自分の情報は大丈夫?)

    ここからが、わたしがいちばん知りたかったところ。

    警察庁の報告書によると、2025年のランサムウェア(パソコンのデータを使えなくして、元に戻す代わりにお金を要求するウイルス)の被害の報告は226件。データを盗んだうえで「払わなければ公開する」と二重に脅す手口が被害の多くを占めていて、盗まれた情報がダークウェブ上のリークサイトに載る例も多く確認されている。発表 同じ年のフィッシング(本物そっくりのメールや偽サイトでパスワードを盗む手口)の報告は約245万件、ネットバンキングの不正送金の被害は約104億円だった。発表

    使っているサービスが 攻撃されて漏れる 偽メールやウイルスで 自分から盗まれる ダークウェブで 公開される、売られる 同じパスワードの別のサービスに 不正ログインされる ここで止める パスワードを変えて、多要素認証を入れておくと 盗まれた情報が「もう使えない情報」になる
    警察庁やIPAの資料をもとに、わたしが単純にした流れ。実際の手口はもっといろいろある。

    この流れを描いてみて、少し気が楽になった。ダークウェブに載るかどうかは、わたしにはほとんど止めようがない。使っている会社が攻撃されたら、こちらが何も悪くなくても漏れる。

    でも、最後の矢印は止められる。盗まれたのが古いパスワードで、しかもそのパスワードをどこにも使っていなければ、売られても誰の役にも立たない。盗まれる前提で、盗まれても困らない状態にしておく、というのが普通の人にできることらしい。推測

    自分のメールアドレスが流出していないか調べる

    よく紹介されているのは、海外の「Have I Been Pwned」というサイトだった。メールアドレスを入れると、過去に漏れたサービスのデータの中にそのアドレスがあるかを教えてくれる。2026年10月21日に見たときには、1,047のサイトから漏れた、約178億件のアドレスが登録されていた。発表 将来の流出を知らせてくれる通知の機能もある。発表

    Googleにも、ダークウェブで自分の情報が見つかると知らせてくれる「ダークウェブレポート」という機能があった。ただ、2026年1月15日に新しい調査をやめて、2月16日に終了している。代わりにGoogleが勧めているのは、パスキー(パスワードの代わりに、スマホの顔認証や指紋などでログインする仕組み)や、Googleパスワードマネージャーの「パスワードチェックアップ」(漏れたり使い回したりしているパスワードを教えてくれる機能)だった。発表

    それから、これはわたしの心配だけれど、「あなたの情報がダークウェブで見つかりました」というメールやSMSが届いたら、まずそれ自体を疑ったほうがいいと思う。不安にさせてリンクを押させるのは、フィッシングのいちばん得意な形だから。調べたいときは、メールのリンクからではなく、自分でサービスの公式サイトを開くようにしている。推測

    流出していたときに、やることリスト

    実際に自分のアドレスが見つかったとき、何から手をつければいいのか。IPAが勧めている対策と、漏れたときによく案内される手順を、チェックしながら進められるようにした。

    流出していたら、上から順に

    終わったものにチェックを入れる。入力したことはどこにも送られず、ページを閉じると消える。

    0 / 6

    まずは、いちばん上から。

    IPAは、パスワードを「できるだけ長く」「複雑で」「使い回さない」ものにすること、そのうえで多要素認証を設定することを勧めている。カードや銀行の確認、メールへの注意は、わたしが流出の案内でよく見かけた手順をまとめたもの。

    こういうサイトで調べてみると、昔登録したきり忘れていたサービスの名前が出てきて「そういえば、こんなのに登録してた」となる人は、たぶん多いと思う。推測 そのとき使っていたパスワードを、いまもどこかで使い続けていたら、危ないのはそっちのほう。リストの2つ目が、地味にいちばん効く気がする。

    ついでに気になったこと

    ディープウェブとダークウェブは、何が違う?

    ディープウェブは、ログインしないと見られないなどの理由で、検索に出てこないページ全部のこと。メールやネットバンキングもここに入る。ダークウェブはその中のごく一部で、Torのような特別なソフトを通さないと見られないサイトを指す。

    VPNとTorは、同じもの?

    VPNは、通信をいったんVPNの会社のコンピューターに通してから外に出すサービス。どちらも、サイトから自分のIPアドレスを隠せる点は似ている。ただ、VPNは1つの会社のコンピューターを通るので、その会社は「誰が」と「どこへ」の両方を知りうる。Torは、その2つを別々の中継点に分けて、両方を知っている場所をなくそうとする仕組み。誰を信用するかの考え方が違う、ということだと思う。推測

    ダークウェブに載った自分の情報は、消してもらえる?

    調べた範囲では、消してもらう方法は見つからなかった。サイトの持ち主も場所もわからないのが、ダークウェブの仕組みそのものだから、たぶん難しい。推測 だからこそ、パスワードを変えて「載っていても使えない」状態にするのが、いちばん現実的なんだと思う。

    調べ終わって

    調べる前のわたしは、ダークウェブをネットの地下にある、薄暗い闇市みたいなものだと思っていた。

    実際は、地下というより、暗号を何重にも重ねてデータを運ぶ「届け方」の名前に近かった。その届け方で闇市を開いた人もいれば、検閲のある国にニュースを届けた人も、内部告発を受け付けた人もいる。闇市のほうは、ここ10年ほどで何度も摘発されてきた。

    そして、わたしみたいな普通の人がダークウェブと関わるのは、たぶん自分の情報が勝手に連れていかれたときだけ。行かなくても、向こうから名前だけは来る。

    なので、今日やることは決まった。パスワードを、もう1つ変える。

    読みあさった資料の一覧

    なるべくTorの開発元や、国、捜査機関が出している資料で確かめた。新聞やニュースサイトの記事は、公的な資料で確かめきれなかったところに「報道」とつけて使っている。

    更新履歴:2026年10月22日 公開

    ※この記事は2026年10月時点で公開されている資料と報道をもとに、専門家ではない個人が調べてまとめたものです。ダークウェブへのアクセスや利用をすすめるものではありません。数字やサービスの内容は変わることがあるので、最新の情報は各機関や各サービスの発表を確認してください。